ある高校生物教師が寄せてくれた話を記述する。
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『生徒が塩基・ヌクレオチド・DNA・染色体・核の関係性を認識できていないことが多々あります。「先生、染色体とDNAって何が違うの?」などと聞いてきます。聞かれるたびに「染色体は、DNAがヒストンなどのタンパク質に巻き付いたりしてできた構造体だよ。」などと教科書を見せながら説明しておりました。すると「タンパク質ってなあに?」と聞いてくるんですよね』
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以上がその話であるが、私はつくづく頷いてしまう。生物教育に対する最上位のコメントと思っているが、平易に言えば「染色体・DNA・タンパク質」という生物学用語の取り扱い/教示法の話題である。皆さんならどう説明しますか?(生物教師検定試験かな?)。
実演生物学の立場からコメントすれば、この話のポイントは「国語と科学用語:イメージ用語と知識用語」の違い/扱いではないかと思っている。小難しく言えば、1)階層性/階層構造レベル、2)構造(要素の配置とその繋がり)、3)実体と概念の連立連携、4)観察的/分析的視点、5)対峙性教育、6)日本語表現法など、幾つかのキーワードが関係するが、これでは混乱するのでここでは少し丁寧に説明する。
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学習の場では、表題/命題に基づき、学習用語が位置する構造レベルについて説明する(その実態/その成り立ちを平易に説明しようとする)。つまり、階層構造レベルの上位から下位へ「構造」という概念をイメージしながら段階的に教示する必要がある(つまり、日本語表現法/パラグラフ構成の課題でもある)。
しかし、学習内容を既に理解している者は真逆に、つまり、構造レベル下位から上位レベルへ、例えば、要素還元主義的な教えに従う知識レベルが高い教師らは「下位の要素/用語に基づき考察」という習慣が自然に作動する。それを教示の場で用いると受講者の視点/ベクトルとはすれ違いが生じ、ギャップに気づかず、いわゆる知識優先/確認式学習に陥ってしまう(いわゆる対峙性学習である)。従って、学ぶ側から見れば「分子博物学?」と映るのかもしれない。すなわち、上位から下位へが主軸ベクトルであり、その上で下位から上位への再確認も必要となる(そんな時間的余裕はないよ/コスパ優先!って声が聞こえてきそうなので、その場合は自習復習も必要?)。
ということで、生物学習の枠組み・段取り・ポイントを改めて説明する(下記参照)。
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1)生物学習の旗頭は「実体と概念の連立連携」であり「形・役割・仕組み・由来」に関わる説明を必要とする。もう少し拡大すると実演生物学が提案する生物学習マトリックス(BioMTX)に応じた対応である。その利点は「疑問に応じた考察の方針/道筋」であるが、「学び/教示の段取り」が一目瞭然であることもポイントである(授業プラン)。
2)生物学習の事の始まりは「用語とそのイメージ」の共有である。前者、その用語/名称はいわゆる記号であり後追い式でもかまわない。そのいわゆる用語名称は生物学習の背景として広がりを見せるが、用語は「知る・分かる・理解する」から構成されているため段階的な教示/学習課題と考える(現実実体の枠組み/観察的と分析的な視点)。後者、イメージは教科書凡例/模式図により容易に共有される。従って、実践学習に置けるキーポイントは「用語の位置付け/取り扱い」になるが、その生物学用語もツリー構造の要素であるため、少し複雑であり、その構造に終始すると疲労困憊になるのでほどほどが適切であろう。
3)従って、上記に基づき生物学習の要点/ポイントをまとめると、扱いが容易な模式図/イメージ図とは構造図/概念図であり、要素の配置とその繋がり(要素の繋がりは役割の起点を示す)により構成された掲載図である(闇雲に描かれたイラストではない)。従って、その説明には多くが受け入れる平易な視座視点/論理的な順列での対応が可能である(構造なのでその順列は平易な観点となるはず)。このことが教示法の最重要ポイントであろう。
ところで、今回の話題「染色体とDNAは何が違うの?・蛋白質って何?」とは「国語か知識用語か」の課題であり、国語/母語日本語の場合はイメージ言語なのでそれなりでかまわないが、知識用語とは特定の学び(通常は教科学習)により構築されるので上述のような配慮が必要である。これでは上記と重複し混乱するが、すなわち、結論から言えば、用語の階層構造性/構造レベルに不案内な場合でもその平易な視点/方法として実演生物学では「構造学習法:描き・見て・考える」を用いている。
それで、例えば、国語「DNA」を知識用語として用いる時は、修飾語を付記し、染色体DNA・遺伝子DNA・2重ラセンDNA・巨大分子DNA、などのように具体的に用いるは学習の場の必須条件であろうと思っている:2名標記。図タイトルの場合、「DNAの構造」ではなく「2重ラセンDNAの構造」というような用法になる。英文教科書では正しく記述されることが一般的であるが、それを日本語に訳すと「コスパ優先」ってことはないはずなのに何故なのであろう?
なお、蛋白質とは核酸などと同様にどんな場面でも使える「総称名称」であり、その形を具体的に示すことはできないが、「摂取/分解/合成される体構造の主要な物質/分類名称:アミノ酸でできた代謝物」なので、同様に学習の場では、例えば、筋肉蛋白質・酵素蛋白質・複合蛋白質・巨大分子蛋白質・蛋白質分子に加え食品蛋白質などになるのかも(これでは漢字の羅列って言われそう!・でも学習者には必要かも!)
つまり、「用語」にも観察的/分析的な視点に基づく「現実実体の枠組み:視点3段論法」が必要であろう(教科書の厚さとは無関係に必要であろう)。また、国語(誰もが普通に使う言葉)を科学用語/学習用語として使用する場合は、学習者への配慮が必要である(その理由は科学用語が単離浮遊化すると暗記対象/暗記教科になってしまうから!)。ちなみに、遺伝子発現とは「国語:継承性」の説明「遺伝の基本」なので、質疑応答を繰り返してこそ、その意味意義が付加されると考える。
以上「染色体・DNA・タンパク質」という用語の話題を解説したが、専門家でも総称名称「蛋白質・核酸・酵素:共立出版の雑誌名」という平易な標語に基づき、生命科学の「構造の探求」に楽しみと戸惑いを感じながら購読したことを思い出す方は多いかもしれない。総じて言えば「学習も研究も同じ科学探求」である。では、科学とは?
以上で終わりです。付き合ってくれたらありがとう(ご意見をお待ちしています)。
追記:知識用語(学習用語)の選定は「要素の繋がり:知識と知識を繋ぐ知識の学び」に基づき定義され、その重要性からツリー構造の要素として選定される(選定されているはずと思っている)。
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